2004年01月16日

座談会「私たちは次に何ができるか」『はんげんぱつ新聞』310号(2004年1月)


私たちは次に何ができるか
-「原発のある社会」を終わらせるために

『はんげんぱつ新聞』310号(2004年1月)

飯田哲也(環境エネルギー政策研究所
鈴木かずえ(グリーンピース・ジャパン
畑直之(気候ネットワーク
武本和幸(刈羽村を守る会/反原発運動全国連絡会

原発の化けの皮がはがされた

 武本
 柏崎刈羽で原発の問題が始まって三十五年くらいになります。いろんなことがありましたが、ここ数年というのは、かつての十年分もの変化が毎年起こっている気がします。昨年(二〇〇三年)で言えば、珠洲原発計画を電力会社が断念したというのが、一つの締めくくりになりました。その前に、東京電力の原発の圧力抑制プールでの異物混入があり、さらにさかのぼれば、前の年のトラブル隠し発覚から東京電力の原発が一時は全部止まって、冷夏のせいがあるにせよ、原発なしでも必要な電気は供給できるという事実が明らかになりました。

 後始末の費用が十九兆円になると電気事業連合会の試算が公表されて、それ自体が過小評価だという点はともかく、全体として、原子力発電が安いというウソも、きちんと管理されているというウソも、電力の安定供給というウソも、すべて化けの皮がはがされたわけです。そんななかで私たちとしては次に何ができるかという議論ができるとよいのですが……。

 飯田
 おっしゃられたように、いろんな側面で今、変化が出ている。原子力だけじゃなくて、右傾化とか保守化とか言われているものも、皆いっしょですよね。日本全体が流動期に入っていて、変化のマグマがあちこちで噴き出ている感じです。

 問題は、古いしくみを守ろうとしている人たちが、未来に対する明るい展望をもっていなくて、被害者意識しかないことです。まずいことに、ビジョンはないけど金と権限はあるから、ともかく抑え込もうとしたり、捨鉢というか、とんでもない方向に変えようとしている。そういう意味で、今はどちらの方向に向かうかという重大な局面ですね。

 鈴木
 十二月にグリーンピース・フランスが、EPR(欧州加圧水型炉)の実証炉の建設計画が具体化しようとしているのに対抗する報告書を出しました。EPRの建設費を風力発電に投資したら、雇用は五倍、発電電力量は二・三倍としています。十九兆円という後始末費用が正しいかどうかはともかく、その額を風力発電なり太陽光発電なりに投資したら、どれくらいの電気がつくれるのか、どのくらいの雇用が地域で現実のものになるのか--そういったことを試算して発表できたらいいですね。

放射能も温暖化もない未来を

 
 原発の問題の一つは、「地球温暖化防止」を推進の看板に使っていることです。

 私たちは、放射能も温暖化もない未来をめざしているんですが、温暖化防止については、京都議定書の批准がなかなか進まない中で「だったら日本も無理しなくていいんじゃないの」みたいな声が市民権を得てきています。それでも原発のほうは、もともと原発推進のために温暖化防止を理由づけとしているだけで本気じゃないから、そこは知らんふりして原発推進の看板はおろさないんじゃないでしょうか。

 武本
 原発が止まったぶん、東京電力では二酸化炭素の排出量が増えたといった宣伝は、相変わらずつづいていますしね。

 飯田
 とはいえ、現実に原発を増やせないことも確かですから、余り大きな声で「原発推進で温暖化防止を」と言うと、逆効果になりかねない。

 長期エネルギー需給見通しの改訂作業が十二月から始まりましたが、環境の位置付けをだいぶ下げるようです。今度の見通しは二〇一〇年と二〇三〇年を目標年にするので、二〇一〇年はそれこそ京都議定書を無視したような現状維持シナリオが出るでしょう。二〇三〇年は「水素社会」。アメリカと同じで、根拠もなしにいい加減な絵を描くんだと思います。

 武本
 今年は原子力委員会のほうでも原子力長期計画の見直しが行なわれることになっていて、そこでやはり「水素社会」と言い出すようです。原子力で水素をつくります、と。

 鈴木
 何もそこまでむりして原子力を使わなくてもいいのにね。

 
 長期エネルギー需給見通しの議論では、産業界の委員から「原発の見通しがいちばん外れているのだから、もっと現実的なものにすべきだ」と発言がありました。もともと経済産業省の考え方というのは、原発と石炭を両方増やすというもので、それによってCO排出量の帳尻を合わせるというものです。

 原発の見通しを現実的にするとなると、原発は建たないけど石炭火発のほうは計画通りできてしまっているので、CO削減のために「もっと省エネを」とか「自然エネルギーを」とかいうことになることが期待されます。

 武本
 原発は増やせないから、設備利用率を上げて辻つまを合わせよう、と経済産業省では考えています。電力会社も、経済的な理由で、そうしたい。ところが、地元から出てきた声は「定期検査の短縮は困る」と言うんです。地元に落ちる金が少なくなるからなんですね。そんな矛盾もでてきている。

リスクを回避できる道がある

 武本
 一昨年八月の東京電力の不正発覚の前は、国と電力会社がいて、その言いなりになる県・市町村がいて、対極に反対運動があった。それが県・市町村はちょっと国・電力と距離を置き始めました。国と電力会社の間でも、本音ではもう原発をつくりたくないというのが出てきている。珠洲の話は、それが端的に出たのだと思います。

 鈴木
 有害物質の使用なんかでも、政府の規制はヨーロッパよりずっと遅れているけど、企業の側は先取りをして不使用物質のリストとかをつくったりしている。そのほうが得だというのを敏感に見ているんですね。電力の世界も、やはり企業の側が先に変わっていくと思うんですよね。

 飯田
 消費者が目の前にいる企業のほうが、対応は早いんですね。電力会社は、いままでは国のほうばかり向いていて、消費者が見えていなかったんですが、自由化という形で消費者が現われた。それと株式市場や金融市場の意味も自由化で変わってきました。原発への投資が難しいのは確かだと思います。

 鈴木
 さっきの話に戻りますけど、政府って、国民を追い詰めるような宣伝の仕方をするじゃないですか。「原発をつくらないと温暖化になっちゃうよ」とか。リスクとリスクを並べて「どっちがいい?」って言うのはおかしいですよね。

 
 それも、どっちがいいかは彼らのほうで決めてしまっているんですよね。

放射能のほうがCOよりこわくないと。

 鈴木
 暗い人たちだなって思いますね。私たちは、「リスクを回避できる道が、ここにあるんだよ」って見せていけたらいい。

 武本
 原発がよくないことは皆わかっているけど、ここまで来て簡単に軌道修正できないというのが、原発の立地した地域の共通した意識だと思うんです。だから、ちゃんと軌道修正できる道が示せたら、変われると思う。

 飯田
 実質的な変化は、地域地域で起こしていくのがいいのかな、と思います。

 鈴木
 去年の夏に東京電力の人たちが「節電のお願い」で企業をまわったときも、すごく協力的だったっていうんですよ。やっぱり皆、原発なんてないほうがいいと思っているんじゃないですか。

 
 「早く再開しろ」とか言う人は、いなかったんですか。

 鈴木
 いなかったみたいですけどね。グリーンピースが東電の人を招いて開いた需給調整契約の説明会でも、参加者が「原発がなくてよいようにするには、どれくらいの省エネをしたらいいんですか。ただ『省エネをしてください』じゃなく具体的に数字で教えてくれたら、できるようにしたい」って迫っていました。

 
 エネルギー消費を下げると言うとすぐ「現実的じゃない」と反論されるけど、「原発二十基増設」ほど非現実的なものもない。霞が関における「現実的」という言葉のほうがよほど「非現実的」ですよ。

 武本
 それでも珠洲の計画断念のあとの経済産業省の大臣官房のコメントで「供給力を増やし量を賄うより、この先は需給の質を高めることにシフトする」とかいうのがありました。原発こそが安定供給を脅かすことは、昨夏ではっきりしたわけです。

 
 はじめに今度の長期エネルギー需給見通しでは原発が抑えられそうとお話ししましたが、抵抗勢力ががんばるかもしれない。でも、それで議論になればしめたものですね。いままで議論にもなっていなかったんですから。

 飯田
 そこで日本のNGOサイドでは、政府の見通しが余りに非現実的なので、ほんとうの意味で現実的な、そして希望のもてるシナリオを共同でつくろうということで、作成中です。政府側に合わせて二〇一〇年と二〇三〇年をにらんだシナリオをつくります。

 鈴木
 二〇三〇年というと自分が生きていないかもしれない人がいっぱいいて、責任があいまいになるので、責任のとれる設定にしてほしいですよね。

 飯田
 でも、逆に、そこにどういう絵を描けるかで哲学が問われるんだとも思いますね。イギリスの『エネルギー白書』では、二〇五〇年を目標年度にCOを一九九七年比で六〇%削減する、七〇%でも可能だとしていますし、ドイツの政府諮問委員会の報告書では、世界全体で二〇五〇年までに三〇%削減という目標を示している。途上国で増える分を先進国が大きく減らすことで全体的に削減していくというものです。

 日本政府の政策は、中国と石油の取り合いになるとか、非常に下品ですね。やはり東アジアと共通の基盤に立って、いままでたくさんのエネルギーを使ってきた日本は最も率先した省エネ政策をとるといった、恥ずかしくないシナリオをつくりたいですね。

 武本
 かなりの人が、原発に限らず、日本社会の現状はおかしいと思っている。それに代わる社会の全体像が示せたらいいですね。

人間一人ひとりの視点から

 鈴木
 省エネっていうのは、何も大ガマン大会ではないんですよね。利便性は保ったまま効率を高めて需要だけ減らしていける。

 飯田
 昨年策定されたエネルギー基本計画は典型的な上から下へのエネルギー政策ですが、そうでなく下からつくりあげていくことが大事です。効率化についても、その方向性が必要だと思うんですよ。石油換算何キロリットルの価値だけで見るのではなく、人間一人ひとりの暮らしの基本が満たされるということをもとにね。

 特に日本は暖房がひどいですから、熱の使い方も考えてエネルギーの大量消費をせずにもっと質感の高い暮らしができるようにしたい。

 
 COを六%削減するなんていうのは、少しも難しいことではありません。エネルギーの利用効率を高める技術は十分にあるので、要は政策の問題なんですね。その先のところで先進国は七〇%削減しないといけないとなったら確かに簡単ではないでしょうが、そうした先まで見越していまからきちんと準備していけば、決して不可能なことではないと思いますね。

 武本
 地元にはまだ原発がありますから、事故を起こさせないように緊張関係を保っていくことが最大の仕事だろうし、少しでも早くとめられるように、自治体の首長や議員という、いちばん身近な選挙で地域を変えていきたい。

 方向としては確実に未来が見えてきました。好機を活かせるよう進んでいきましょう。

(03年12月15日、環境エネルギー政策研究所にて収録)

Posted by 編集部 at 2004年01月16日 13:03