「風車」-第五八号(一九八三年二月)
邦光史朗の『鉛の箱』が徳間文庫に入った。敦賀1号炉とおぼしき原発の輸入をめぐって汚職と殺人がからむミステリーである。GE、WH両者とおぼしき米企業と結んだ、東京電力および関西電力とおぼしき会社の出向者たちが、日本原電とおぼしき会社のなかであい争う。
肝心の「放射線殺人」はいささかならず無理があるようだが、一九六五年という早い時点で原発を主題にミステリーを書いた先見の明には敬意を表したい。邦光には『影の時間』(ノンノベル)という核ジャック小説もあり、短篇でも原発を扱っている。
原子力産業グループの結成をテコに旧財閥が復活したことや、バスに乗り遅れまいとしてありとあらゆる企業が原子力産業会議に名を連ねたことなど、黎明期の日本原子力事情がわかりやすく説明されているのも、『鉛の箱』のありがたさだ。
小説に描かれたような汚職がはたして実際にあったかどうかは寡聞にして知らない(まさか殺人までは!)が、アメリカからの軽水炉売り込みに道を開いたといわれている男の名を、中曽根康弘という。「ぐずぐずしている学者のほっぺたを札束でなぐってやるのだと、いち早く原子力予算をぶんどってきた代議士」である。(西尾)
Posted by 編集部 at 2004年01月21日 17:34