「風車」-第一〇一号(一九八六年八月)
近ごろベクレルという耳慣れぬ言葉に出会った人も多かったのではないか。ピコキュリーという放射能の単位に、さんざん悩まされて、ようやく慣れたと思ったら、今度はベクレルである。
ベクレルは、キュリーという以前からある単位を、新しい国際単位系(SI単位系)でおきかえたもので、一ベクレル=二十七ピコキュリーである。いやそのことはどうでもよかった。問題はベクレルである。
フランスの物理学者、アンリ・ベクレルがウラン鉱石の放射能を発見したのは、今からちょうど九十年まえのことであった。それから二年後には、ポーランドの女性化学者、マリー・キュリーが放射能の正体の物質、すなわち放射性物質ポロニウムとラジウムをつきとめた。これがいわば原子力の始まりだ。
帝政ロシアの圧政にくるしむポーランド民衆にとって、パリでのマリーの成功はどれだけのはげみとなったことか。しかし、そのマリーは、放射能の病に斃れた。
放射能発見以来九十年にして、今チェルノブイリからの放射能雲は世界を襲い、ベクレルやキュリーの名は単位の呼称となって、新聞紙面をにぎわした。強い放射能に見舞われたポーランドの人々は、キュリーの呼称をどんな思いで聞いたことか。
ポーランドの人々ならずとも、この九十年の歴史を、ここらでじっくりとふり返ってみずばなるまい。(高木)
Posted by 編集部 at 2004年01月21日 17:57