2004年01月22日

「風車」-第一七一号(一九九二年六月)

「風車」-第一七一号(一九九二年六月)

 五月三十日、井上光晴さんが、がん性腹膜炎で逝った。井上さんには、長崎の被爆を扱った小説の『地の群れ』や『明日』のほかに、原発を主題とした戯曲や小説が数篇ある。

 八九年に文芸春秋から刊行された小説『輸送』は、使用済み燃料の輸送車の"事故"を描いたもの。そのあとがきには、こうあった。「あえていうが、『輸送』は近未来小説ではなく、SFでもない。この作の主題は文字通り『明日』にかかわる『今日』そのものの現実におかれている」。

 それは、原発が現に運転され、使用済み燃料などがひんぱんに輸送されている「今日」が「明日」の大事故を準備しているという以上に、原発の存在そのものが「今日」、人々の心を、また、社会全体をゆがめていることを指しているのだろう。核物質の輸送に係る情報を秘密にせよ、という科学技術庁の通達があらためて浮かび上がらせた「核管理社会」の姿は、まさにSFどころではない。

 八六年に同じ文芸春秋から出た『西海原子力発電所』も……と、ここまで書いてきたとき、今度は山戸順子さんの訃報が飛び込んできた。順子さんには、彼女が山口県上関町の町議に当選したとき、インタビューをさせてもらったりしている。肺がんのため三十日死去。三十八歳だった。

 口惜しくも、ただ冥福を祈るのみ。(西尾)

Posted by 編集部 at 2004年01月22日 00:41